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犬と猫の肥満細胞腫について

愛犬や愛猫の体に突然現れる小さなしこりや腫瘍に、不安を感じる飼い主様は少なくありません。「ただの脂肪の塊だろう」と思いながらも、念のため動物病院を訪れたところ、実はその小さな腫瘍が肥満細胞腫であったというケースも見受けられます。

 

肥満細胞腫は早期発見と適切な治療が何よりも重要です。普段から愛犬や愛猫の体を優しく撫でながら、異常がないかを確認することを心がけましょう。

 

今回は、肥満細胞腫の原因や症状、診断方法、そして治療法について詳しく解説します。

 

 

■目次
1.肥満細胞腫とは
2.原因
3.症状
4.診断方法
5.治療方法
6.予防法やご家庭での注意点
7.まとめ

 

肥満細胞腫とは

肥満細胞腫とは、犬や猫において最も一般的に見られる悪性腫瘍の一つです。

この腫瘍は、肥満細胞と呼ばれるアレルギー反応や免疫反応に関与する細胞が、何らかの原因で異常に増殖してしまうことで形成されます。本来、肥満細胞は体を守るために重要な役割を果たしますが、制御が効かなくなると腫瘍となって現れてしまいます。

特に犬では、皮膚にしこりや小さな腫瘍として現れることが多く、飼い主様が気づくことがよくあります。

 

この肥満細胞腫は、見た目が良性の腫瘍と非常によく似ているため、たとえ小さなしこりでも油断は禁物です。もしも腫瘍が悪性であれば、早期の治療が予後に大きく影響しますので、早めの対応が重要です。

 

当院でも、飼い主様が「悪性ではないだろうけれど、念のため」と小さな腫瘍を切除したところ、実はそれが肥満細胞腫だったというケースがたびたび見られます。このような経験からも、飼い主様が日々のケアで異変を感じたら、すぐにご相談いただくことをお勧めします。

 

原因

肥満細胞腫が発生する原因は、まだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。

犬の場合、特に中高齢に多く見られ、その発生には遺伝的要因が大きく影響しているとされています。

 

具体的には、「KIT」と呼ばれる遺伝子の変異が、肥満細胞の異常な増殖を引き起こし、腫瘍の形成につながることが知られています。この遺伝子変異は、特に特定の犬種で高い頻度で見られるため、遺伝的要因が強く関連していると考えられます。

 

一方、猫の場合も、明確な原因がまだ解明されていませんが、犬と同様にKIT遺伝子の変異が関係している可能性があります。また、猫では肥満細胞腫が皮膚だけでなく内臓にも発生しやすいという特徴があり、特に注意が必要です。

 

症状

肥満細胞腫には、主に皮膚に現れる「皮膚型肥満細胞腫」と、内臓に発生する「内臓型肥満細胞腫」の二つのタイプがあります。

それぞれのタイプによって症状が異なり、以下のような症状が現れることがあります。

 

<皮膚型肥満細胞腫>

犬や猫の皮膚にしこりや腫れとして現れます。頭部、首の周り、耳の周辺、または四肢や胴体に発生しやすく、しこりは硬く、触っても動かないことが一般的ですが、痛みを感じることはあまりありません。そのため、しこりや腫れを見つけた場合は、早めに動物病院で診察を受けることが大切です。

皮膚型肥満細胞腫は見た目以外の症状が現れにくいため、日頃から愛犬や愛猫の体に触れて異常がないか確認することが、早期発見につながります。

 

なお、当院の場合、皮膚(体表)にできているものは、かなり大きくても鎮静剤の使用や局所麻酔で全身麻酔をすることなく切除できます。

 

<内臓型肥満細胞腫>

内臓型肥満細胞腫は、脾臓や肝臓、腸などの内臓に発生し、非常に悪性度が高いのが特徴です。このタイプは皮膚型とは異なり、症状が全身に現れることが多く、活動量の低下、食欲不振、体重減少、嘔吐、下痢、さらには貧血など、さまざまな症状が見られることがあります。特に猫では内臓型肥満細胞腫が比較的多く見られ、早期発見が難しいため、定期的な健康診断が重要です。

 

診断方法

肥満細胞腫の診断には、いくつかの検査が行われますが、最も一般的な方法は「細胞診」です。この検査では、しこりや腫瘍に細い針を刺して細胞を採取し、その細胞を顕微鏡で観察します。この方法によって、腫瘍が肥満細胞腫であるかどうかを迅速に判断することができます。特に皮膚に発生した小さな腫瘍であれば、簡単に細胞を採取することが可能です。

 

しかし、細胞診だけでは腫瘍の悪性度や正確なグレードを判断することが難しい場合があるため、腫瘍を切除して病理検査を行うことが推奨されます。病理検査では、腫瘍の細胞を詳しく調べることで、腫瘍の性質や悪性度を正確に評価することができます。

 

また、内臓型肥満細胞腫が疑われる場合には、エコー検査やレントゲン、CTなどの画像診断も行われます。これらの検査によって、腫瘍の位置や大きさ、さらには他の臓器への転移の有無を確認することができます。

 

治療方法

肥満細胞腫の治療は、腫瘍の悪性度や発生場所、転移の有無に応じて異なります。

 

<皮膚型肥満細胞腫の治療>

皮膚に発生する肥満細胞腫に対する基本的な治療法は、外科手術による腫瘍の切除です。腫瘍を周囲の正常な組織ごと広範囲に切除することで、再発のリスクを最小限に抑えることができます。特に、腫瘍が小さく、悪性度が低い場合には、手術によって完治が期待できることもあります。

ただし、腫瘍が取りきれなかった場合や再発のリスクが高い場合には、追加の治療が必要になることがあります。

 

再発防止や残存する腫瘍に対しては、放射線療法や化学療法が検討されることがあります。放射線療法は、手術後の再発防止や取り切れなかった腫瘍に対して有効です。

また、化学療法は広範囲に転移が見られる場合や、手術や放射線療法が難しいケースで使用されることがあります。

 

<内臓型肥満細胞腫の治療>

内臓に発生する肥満細胞腫は、特に脾臓や肝臓に発生することが多く、これらの場合には外科手術が第一選択となります。例えば、脾臓に腫瘍が発生した場合には、脾臓の摘出手術が行われます。

手術が成功すれば症状の改善が期待されますが、腫瘍が他の臓器に転移していた場合には、追加の治療が必要です。

 

また皮膚型肥満細胞腫、内臓型肥満細胞腫ともに、分子標的薬と呼ばれる新しいタイプの薬が使用されることがあります。

分子標的薬は、肥満細胞腫の発生に関与する特定の遺伝子を標的とし、悪性細胞のみを攻撃する効果があります。この治療法は、従来の抗がん剤とは異なり、健康な細胞に与えるダメージが少ないのが特徴です。

 

さらに、漢方薬やサプリメントを使用することで、再発予防や体力維持を図ることも可能です。特に、免疫力を高める効果が期待される漢方薬は、肥満細胞腫の治療と併用することで、治療の効果をより引き出しやすくなります。

 

予防法やご家庭での注意点

肥満細胞腫の予防は難しいですが、日々のケアを通じて早期発見やリスクを軽減することは可能です。まず、愛犬や愛猫の体を撫でながら、しこりや異常がないかをこまめにチェックしましょう。もし気になることがあれば、自己判断せずに、早めに動物病院で診てもらうことが大切です。

 

定期的な健康診断は、目に見えない内臓の腫瘍や他の健康問題を早期に見つけるための有効な手段です。動物病院での検診だけでなく、ご家庭でも定期的に体調を確認し、健康管理に努めることで、肥満細胞腫の早期発見につながります。

 

また、ご家庭では、バランスの取れた食事と適度な運動を心がけることで、免疫力を高めることができます。

そして、愛犬や愛猫がリラックスできる環境を整えることも、健康維持において大切です。こうした日々の積み重ねが、大切な家族の健康を守ることにつながります。

 

まとめ

肥満細胞腫は、犬や猫に比較的よく見られる腫瘍ですが、早期に発見して適切な治療を受けることで、愛犬や愛猫の健康を守ることができます。

日頃からの観察や定期的な健康診断を心がけることで、肥満細胞腫を早期に発見できる可能性が高まります。また、治療後のケアや日常生活での注意を続けることが、再発のリスクを減らすために大切です。

 

日常のスキンシップを大切にし、もし何か気になることがあれば、早めに動物病院で診てもらいましょう。ご不安やご質問があれば、いつでも当院にご相談ください。

 

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