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猫のFIPが疑われたら|家族にできるケアと穏やかな日々の過ごし方
- 2025.12.1 | ブログ
猫の「FIP(猫伝染性腹膜炎)」という名前を聞いて、思わず不安になったご経験はありませんか?かつては「治らない病気」と言われていたFIPですが、今では治療法が進歩し、自宅での内服治療が可能になるなど、希望を持てる時代に変わりつつあります。
そしてもう一つ大切なのが「治療」だけでなく「猫との日々の過ごし方」。体調に波がある中でも、安心して過ごせる環境づくりや、家族にできる心のサポートが、猫の回復力を引き出す手助けになります。
そこで今回は、FIPについて知っておきたい基礎知識から、ご自宅でできるケア、飼い主様ご自身の心の保ち方までを、わかりやすくご紹介します。
■目次
1.猫のFIPとは?
2.FIPが疑われる・診断されたときの「猫の様子」
3.猫が安心して療養できる「おうちの環境づくり」
4.家族にできる“心と体”のサポート
5.飼い主様ご自身の「心のケア」も忘れずに
6.まとめ
猫のFIPとは?
FIPは「猫伝染性腹膜炎」と呼ばれる病気で、元は「猫コロナウイルス」というウイルスが変異することで発症します。すべての猫が発症するわけではなく、免疫力が落ちたときやストレスが引き金になることもあります。
FIPには主に以下の3つのタイプがあります。
・ウェットタイプ(滲出型):お腹や胸に液体がたまり、呼吸が苦しくなる、体重が減るなどの症状が見られます。
・ドライタイプ(非滲出型):液体はたまらず、神経症状(ふらつき、けいれん)や目の異常などが現れることがあります。
・混合型:上記両方の症状がみられるタイプです。
近年では、「モルヌピラビル」という新しい治療薬により、自宅での内服治療が可能になりました。これにより、通院ストレスを減らしつつ治療ができる選択肢も広がっています。
▼ 詳しくはこちら
FIP治療について
FIPが疑われる・診断されたときの「猫の様子」
FIPを発症した猫は、体調や行動にさまざまな変化を見せます。最初は「ちょっと元気がないな」「よく寝ているな」といった小さな違和感から始まることもあります。
〈よく見られる初期症状〉
・食欲が落ちる
・体重が減る
・活動量が減り、寝ている時間が長くなる
・高い場所に登らなくなる
・微熱が続く(触るとほんのり熱っぽい)
「今日は少し元気そう」と思える日もありますが、それでも“様子見”は危険です。FIPは進行の早い病気ですので、少しでも気になる変化があれば、早めの受診が大切です。
猫が安心して療養できる「おうちの環境づくり」
FIPと診断されたあとの生活では、猫がなるべくストレスなく穏やかに過ごせる環境を整えることが大切です。
◆ 適切な温度と湿度
体調がすぐれない仔にとって、暑すぎる・寒すぎる環境は大きな負担になります。人が「薄手の長袖で快適」と感じる程度の温度(20〜26℃前後)・湿度(50〜60%)を目安に、冷暖房や加湿器、除湿機を調整してください。冬場は床が冷え込みやすいため、ベッドの下にマットを敷く、毛布を重ねるなど、体が冷えにくい工夫も効果的です。
◆ 落ち着ける場所の確保
リビングの真ん中のように人や音が多い場所では、ゆっくり眠れないことがあります。家族の動線から少し外れた場所にベッドを移したり、カーテンの裏や棚の下など「少し隠れられる場所」に毛布を敷いたりして、“安心できる隠れ家”を用意してあげると良いでしょう。お気に入りのブランケットや飼い主様の匂いのついたタオルを一枚入れてあげるだけでも、安心感が変わります。
【多頭飼いのお家の場合】
多頭飼いのお家では、元気な猫がじゃれついてしまったり、FIPの仔がゆっくり休めなかったりすることもあります。そのような場合には、短期間でも別室を用意してあげる、サークルやゲートで仕切るなどして「自分だけの静かなスペース」を確保してあげることも大切です。
◆ トイレや食事の位置を見直す
体力が落ちていると、いつもと同じ距離でも移動がつらく感じられます。できるだけ少ない歩数でベッドからトイレ、フードボウル、お水に届くように配置を調整してあげると、負担が減ります。
トイレのヘリが高くてまたぎにくそうな場合は、入口の低いタイプに替えるか、踏み台を置いてあげると出入りが楽になります。
家族にできる“心と体”のサポート
FIPの治療期間中、家族ができるサポートはたくさんあります。
◆ 内服薬の管理
モルヌピラビルをはじめとするお薬は、決められた時間・量を守って投与することが大切です。飲み忘れを防ぐために、スマホのアラームをセットする、カレンダーにチェックをつける、家族の中で「朝はこの人、夜はこの人」と役割を決めるといった工夫が役立ちます。
また、体調の変化や副作用の有無をこまめに記録しておくと、診察時の情報提供にも役立ちます。
◆ 食事の工夫
体調によって食欲に波が出ることもあります。香りを立たせるためにフードを少し温めたり、いつもと違う味にしてみたり、水分を足してやわらかくすることで食べてくれる場合もあります。
それでも一度に食べきれないときは、1日の量をいくつかの小分けにして「少しずつ何回も」食べてもらうスタイルにすると負担が軽くなります。
◆ 水分補給のサポート
脱水を防ぐため、水分はとても大切です。お水の器を家の中の数カ所に置く、自動給水機のような“流れるお水”を試してみる、ウェットフードやスープ状のフードを取り入れるなど「自然と水分がとれる工夫」をしてあげるとよいでしょう。
◆ 日々のコミュニケーション
「元気を出してほしい」という思いから、つい遊びに誘いすぎたり「食べてほしい」という気持ちから何度も口元にフードを押しつけてしまったりすることもあるかもしれません。しかし、無理に遊ばせたり、嫌がるのに口へ押し込んだりするような与え方は、かえってストレスや誤嚥のリスクにつながります。「その仔のペースを尊重する」という原則を忘れず、遊びたそうにしているときだけ軽く付き合ってあげて、途中でやめたら「今は休みたいんだね」とそっと見守ってあげましょう。
◆ 家族で情報を共有
猫の食欲や排泄、活動量の変化を家族間で共有することで、異変に早く気づくことができます。小さな記録が大きなヒントになることもあります。
飼い主様ご自身の「心のケア」も忘れずに
FIPと向き合う中で、不安や戸惑い、先の見えない焦燥感に押しつぶされそうになる飼い主様も多くいらっしゃいます。
「自分のせいかもしれない」「もっと早く気づけていれば」と自分を責めてしまう方もいますが、FIPは誰にも予測が難しい病気です。
また、SNSやインターネット上にはFIPに関するさまざまな情報があふれています。実際に役立つ情報もありますが、中には科学的根拠が薄いものや、別の病気を悪化させてしまうような方法が混ざっていることもあります。「必ず治る」「この方法を知らない病院はダメだ」といった極端な表現には特に注意が必要です。
気になる情報を見つけたときは、ご自身だけで判断せず、画面のスクリーンショットなどを保存して、診察時に獣医師に見せてください。当院では、飼い主様が集めてくださった情報も大切にしながら、その仔の状態に合うかどうか、危険性はないかなどを一緒に検討していきます。
看病が続くと、飼い主様ご自身の心と体が疲れてしまうこともあります。「こんなことで相談してもいいのかな」と遠慮する必要はありません。治療のことだけでなく、不安や迷い、つらさそのものをお話しいただくことも、私たちの大切な役割だと考えています。
まとめ
FIPの治療には時間と根気が必要です。その中で、猫が安心できる環境を整え、家族全員で寄り添ってあげることが、何よりのサポートになります。
みどりが丘動物病院では、モルヌピラビルによる治療や、ご自宅でのケアについてもサポートしています。
「FIPかもしれないと言われた」「今の治療方針で良いのか不安」「家でどのように過ごさせてあげればいいのかわからない」。そんなときは、お一人で抱え込まず、どうか遠慮なくご相談ください。
福岡市東区のみどりが丘動物病院
院長 大澤広通


