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犬たちと向き合う診察室の時間|獣医師が犬たちから教わった大切なこと

こんにちは。みどりが丘動物病院 院長の大澤です。

今回は少しだけ専門的なお話から離れて、日々の診療の中で、犬たちと向き合う時間を通して感じていることを綴ってみたいと思います。

 

何気ないように見えるそのひとときが、実はとても大切なことを教えてくれる。

そんなお話を、今日はお届けします。

■目次
1.朝の気配
2.言葉を超えて伝わるもの
3.診察室の静かな時間
4.家庭での顔
5.「痛いのに嬉しい」という、不思議な時間
6.覚えているということ
7.ともに過ごす時間
8.おわりに

 

朝の気配

朝、診察の準備をしていると、待合室から小さな足音が聞こえてくることがあります。

 

カチャカチャと響く爪の音。

そのリズムからは、「今日の仔仔は少し緊張しているかな」「ちょっとワクワクしているのかも」など、その日の気持ちが伝わってきます。

 

名前を呼んで扉を開けると、耳をぴんと立ててこちらをうかがう仔、そっと後ろに隠れてしまう仔、じっと目を合わせてくる仔など、反応はさまざまです。

 

動物病院の毎朝は同じようで、まったく同じではありません。

その仔の今日の気分を受け取り「今日はどう接すれば安心してもらえるかな」と考えながら、診察が始まります。

 

言葉を超えて伝わるもの

犬たちと接していると、こちらが発する言葉より、むしろ沈黙のなかに、たくさんの情報が詰まっているように感じます。

 

表情や目の動き、呼吸のリズム、そして体の動きなど、全身を使って今の気持ちを一生懸命伝えてくれています。

 

「大丈夫だよ」「怖くないよ」と言葉で伝えることも大切ですが、ときには、静かにそばにいるだけで、気持ちが伝わることがあります。

言葉を交わさなくても、手のぬくもりや優しいまなざしから、犬や猫が安心してくれる瞬間があるのだと実感します。

 

診察室の静かな時間

診察台の上で過ごす時間は、犬や猫にとって、決して楽しいことばかりではありません。

それでも、じっとこちらの顔を見つめてくれたり、飼い主さんの声に安心して体の力がふっと抜けたりすることがあります。

 

そうした小さな変化を見逃さないように、ひとつひとつに心を配っていくことで、少しずつですが、信頼が積み重なっていきます。

 

一度の診察だけではわからないことも、何度も顔を合わせていく中で「今日はちょっと元気がないかな」と感じ取れるような瞬間が生まれるのです。

 

家庭での顔

診察が終わって飼い主さんに抱き上げられると、急に表情がやわらぎ、リラックスした顔を見せてくれる仔がいます。

そんなとき、飼い主さんから「うちではもっとやんちゃなんですよ」といったお話をうかがうと、診察室では見せない姿が目に浮かび、思わずこちらも笑顔になります。

 

病院で見せる顔、家で見せる顔、散歩のときの顔。

その全部が「その仔」で、どの顔も大切にしたいと思っています。

 

動物病院という場所は、どうしてもその仔の限られた一面しか見えない場でもあります。

だからこそご家庭での様子や、日々のちょっとした変化を教えていただけることが、何よりも大切でありがたいのです。

 

そして私たちは、限られた時間しか一緒にいられないけれど、その中でできるだけ、その仔の「普段」を想像して、尊重したい。

ただ治すだけではなく、「その仔らしく」帰ってもらうのが目標です。

 

「痛いのに嬉しい」という、不思議な時間

以前、入院していた仔がいました。

食欲もなく、目にも力が入っていない様子。それでも、声をかけると、わずかにしっぽを振って応えてくれるような、そんながんばり屋の仔でした。

 

毎朝、「がんばれ、早く治しておうちに帰ろうね」と声をかけながら、顔を近づけてそっとスリスリするのが、いつの間にか習慣になっていました。

 

そして4日目の朝。

いつものように顔を寄せたその瞬間、突然その仔がパッと動いて、私の頬をガブッと噛んだのです。

思わず「痛っ」と声が出るほどでしたが、とっさに頭に浮かんだのは、「あ、この仔、元気になってる」という思いでした。

 

噛まれたことすら、なんだか嬉しくて。

「痛いのに嬉しい」

今でも不思議な気持ちが残っている出来事です。

 

退院のときにその話を飼い主さんにお伝えしたら、とても恐縮されてしまって。

数日後には、なんと立派なお煎餅を持ってご来院くださいました。

「しまった、言わなければよかったかな」と、少しだけ思ったものの、そのやりとりがどこか心に残る、あたたかい思い出になっています。

 

覚えているということ

ある日、退院してしばらく経った仔が、ふと来院してくれたことがありました。

その仔は、診察室に入るなり私の顔をじっと見つめ、そっとしっぽを振ってくれたのです。

 

入院していた間、毎日「今日はどうかな」と声をかけながら、その仔の顔をのぞき込んでいた日々。

そのときの時間を、もしかしたら覚えていてくれたのかもしれません。

 

そう思うと、犬や猫たちは、言葉以上に深く、そしてあたたかく人との時間を感じ取り、覚えていてくれるのだと、あらためて気づかされました。

 

短いようでいて、とても濃い時間。そのひとつひとつが、大切な記憶として残っていくのだと思います。

 

ともに過ごす時間

通い始めたころは小さな仔犬だった仔が少しずつ白い毛が混じるようになり、やがて、ゆっくりと歩く姿を見せてくれるようになる。

 

そんなふうに、成長や歳月を一緒に見守らせていただけることは、この仕事をしていて本当に特別なよろこびです。

 

年齢を重ねることで、体調や生活のリズムは少しずつ変わっていきます。

それでも、「いつものようにしっぽを振ってくれる」「ゆっくりだけど、自分の足で歩いてきてくれる」

 

そんな何気ないけれど大切な日々が少しでも長く続いていくように、これからもひとつひとつの診察をていねいに重ねていきたいと考えています。

 

おわりに

今回は、専門的なお話ではなく、日々の診療の中で私たちが感じていることを綴らせていただきました。

犬たちと過ごす時間は、一見すると短く、ささやかなものに見えるかもしれません。

 

けれど、そのひとつひとつの瞬間が、思っている以上に深く、大きな意味を持っていると感じています。

 

私たちにとっては日常の一コマでも、犬たちにとっては「病院に来る」という、少し特別な出来事。

だからこそ、できるかぎり穏やかな気持ちで過ごしてもらえるように、そっと寄り添える存在でありたいと、日々思っています。

 

次回は、「猫と過ごす時間」についてお話しする予定です。

猫には猫ならではの静けさや、ちょうどよい距離感があります。

どうぞ、そちらも楽しみにお待ちいただけたら嬉しいです。

 

福岡市東区のみどりが丘動物病院

院長 大澤広通 

 

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