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猫といる時間

みどりが丘動物病院の大澤です。

今回は、猫と過ごす時間について、少しだけお話しさせてください。

専門的な話はちょっとお休みして、日々の診察の中で感じていることを。

■目次
1.目が合わない……でも、合っている
2.手を出すか、出さないか
3.病院の音に耳をすます
4.逃げ場をつくる
5.突然の“タッチ”
6.名前を呼ぶと、耳だけ動く
7.おわりに

 

目が合わない……でも、合っている

猫の診察というのは、犬とは少し違うテンポで始まります。

 

待合室からそっとキャリーが運ばれてきて、中から静かな気配がこちらを探っている。

扉を開けても、目は合いません。合わない……ように見えるだけで、ちゃんと見られています。

これはたぶん、「おまえは、信用に値するか?」という、いきなり始まる面接のようなものです。

 

だから私は、あることを心がけています。

目が合ったその瞬間——

「ニャッ」と、できるだけ自然に、短く小さく鳴いてみるんです。

人間の声帯では完璧には再現できませんが、猫たちはけっこうな確率で反応してくれます。

この「ニャッ」は、猫の世界ではごく基本的なあいさつなのだそうで、どうやらこれができない相手は、そもそも会話のスタート地点に立てないようです。

うまく通じたときは、少し表情がゆるむような気さえします。

 

さらに、もう一つ。

目が合ったら、ゆっくりとまぶたを閉じます。

これは「敵意はありませんよ」という猫界のサイン。

じっと見つめ返すのは、失礼を通り越して喧嘩の合図らしいので、うっかりしないようにしています。

(猫に「ガン飛ばしたな」と思われるのは本意ではありません)

 

そんなふうにして、診察は静かに、交渉から始まります。

 

手を出すか、出さないか

出てきたとしても、診察台の上に乗った瞬間、背中がスッと伸びて、次の動きに備えるように足先に力が入っています。

 

そんなとき、触るか触らないか、迷うことがあります。

触れてしまえば崩れるバランスがあるのを、猫は本当によく知っている。

だから、待つ。目線だけで伝える。

「大丈夫だよ」「怖いことはしないよ」

そうやって少しずつ距離を縮めていきます。

触れられるようになったら、そこからが診察の始まりです。

それまでの数十秒、あるいは数分が、いちばん神経を使う時間です。

 

病院の音に耳をすます

猫は、病院の音にとても敏感です。

遠くで鳴いた他の動物の声、扉の開閉音、紙の擦れる音。

私たちが気にも留めないような音に、ピクリと耳を動かす。

そういう姿を見るたびに、「ああ、この子にとってここは知らない世界なんだな」とあらためて思います。

 

だからこそ、できるだけ静かに、ゆっくり、慎重に。

猫にとっては、「なにをされたか」以上に、「どうされたか」が心に残るように感じます。

 

逃げ場をつくる

診察室には、キャリーごと入ってもらうことが多いです。

なぜなら、猫には「逃げ場」が必要だから。

人の腕に抱かれるよりも、自分の落ち着ける場所がそばにある方が、ずっと安心できる子もいます。

 

ある子は、診察中ずっとキャリーの中からこちらを見ていて、必要なときだけ一歩出てきて、終わるとまた自分で戻っていきました。

あの、静かな出入りの姿に、「この子なりにがんばってくれているんだな」と感じたのを覚えています。

 

突然の“タッチ”

猫との診察には、予測不能な瞬間がつきものです。

じっとしていたと思ったら、ふいに手が飛んできたり、あごを診ようとしただけで、背中から全力の“ニャッ!”が飛び出したり。

 

ある子などは、採血中はじっと我慢していたのに、終わって「がんばったな」と声をかけた瞬間、後ろ足でビシッと蹴ってきました。

「タイミングそこ!?」と思わず笑ってしまったのですが、

きっとその子にとっては、「もういいでしょ」の合図だったんでしょうね。

 

犬に噛まれたときも痛かったですが、猫にピシャリとされたときの“さすがです感”も、なかなかのものがあります。

 

名前を呼ぶと、耳だけ動く

飼い主さんが名前を呼ぶと、ピクリと耳だけ動く。

こちらが同じように名前を呼んでも、動かない。

でも、ちょっと声のトーンを真似して呼ぶと、今度は目だけこちらを向く。

こういう細かな反応のやりとりが、なんだかおもしろくて、そして、なんだかありがたいのです。

 

猫は、人に付き従う動物ではありません。

でも、こちらが敬意を払えば、ちゃんと関係を築いてくれる。

それがまた、たまらなく魅力的です。

 

おわりに

猫との診察は、まるで「静かな取引」のようなときがあります。

こちらがどう出るか、相手がどう受け止めるか、その一手一手に神経を使います。

でも、その緊張感の中で、少しずつ心を開いてくれると、それはもう、とても特別な気持ちになります。

 

言葉も、しぐさも、距離感も、犬とはまったく違いますが、猫の世界に入れてもらえるようになると、そこには深く静かな信頼があります。

 

今回の内容も、あくまで日々の中で感じていることです。

専門的な話ではありませんが、猫たちへのちょっとした“ごあいさつ”のつもりで書きました。

読んでくださって、ありがとうございました。

 

福岡市東区のみどりが丘動物病院

院長 大澤広通 

 

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